みなさま明けましておめでとうございます。本年も新論説集「マージナリア」をよろしくお願いいたします。
さて、今月下旬上梓予定の新論説集「マージナリア」第7号にさきがけて、今回は福岡国際バレエフェスティバルの評文をご紹介します。ほかにもテーマ「遊び」に関連した対談や国際交流企画など、さまざまな文章が掲載されていますので、発売された折にはぜひご一読ください!
▶第7号の購入方法(随時更新中)
http://ronsetsu-marginalia.blogspot.com/2014/02/purchase.html▶福岡国際バレエフェスティバル現地レポート(本文はこちらのPDFの下側にも転載しました)
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■現地レポート
「独特の公演形態と安定した質の高さに将来性を感じた福岡発プロジェクト」
『Amor Vincit Omnia』 坂本莉穂、マシュー・パウリキ・シンクレア (オランダ国立バレエ団) Photo ©Kazuhisa Shiihara |
私自身は微力ながらプロモーションビデオの編集などに携わった身であるから、公平な見地からフェスティバルを批評できる立場にあるとは思っていない。とはいえ、日本のバレエ界を巣立ち、ヨーロッパ内外のバレエ学校やバレエ団を現地で見てきた人間として、福岡の一角で始まったこのささやかな物語がなぜかくも特筆すべきものに思われるのか、ということを話しておこう。
文学や音楽などでも同じことが言えるかと思うが、バレエには2つの鑑賞方法がある。
もう1つは、社会的・歴史的な価値に目を配る鑑賞方法である。こちらはしばしば後世の客観的判断に委ねられるし、芸術と呼ばれるものの中には反体制的な表現が少なくないため、政治や宗教が表現の自由を制限してしまうと鑑賞はおろか、個々人の芸術活動そのものに支障が出る、という面があるのは事実である。
したがって、私が本当に驚嘆すべきだと思うバレエ公演というのは、まず経済的・社会的な需要に対応しており、なおかつ現在の人々の心に語りかけるようなもの、そういった現実と美のコンビネーションなのだ。どんな壮大なプロジェクトも、結果の見えないものは徒労に終わってしまう。今回の福岡国際バレエフェスティバルはというと、個人の手になる企画では稀にこの2つの条件を満たす快挙だったと思うのである。
私が観劇したのは、7月27日に行われた福岡市内での公演である(翌28日には北九州公演が催された)。外海に面する福岡市はアジア諸国との交易を受け持ってきた独自の歴史を背景に、伝統工芸や歴史資源の観光利用、そして幅広い文化政策に力を入れている。フェスティバルの舞台となったアクロス福岡もまた、そういった一連の文化事情のもとで建てられた、現代的な建築の1つである。劇場や公共文化施設の閉鎖・改築が相い次ぐ東京都に比べると、将来的なビジョンのはっきりしたアートマネジメントが推進されている都市だという印象を受けた。
当日終演後の様子。 Photo ©Kazuhisa Shiihara |
地元バレエスタジオの子供たちによる心温まるデフィレに続き、最初はノルウェー国立バレエ団の槇美晴とダウワ・デッカーズがサタネラのパドドゥを踊った。初々しさにあふれた2人の軽快な足捌きは、プログラム後半のカロヤン・ボヤジエフ振付『Different Futures』における水面をすべるような静けさと好対照を成していた。私はノルウェー国立バレエ団のジュニアカンパニーを率いるボヤジエフ本人が現地にまで駆けつけて指導している姿を垣間見たが、ノルウェーやオランダといった日本では見る機会に恵まれないバレエ団のダンサーを一挙に眺めることができるのも、このフェスティバルの醍醐味である。
『ディアナとアクティオン』 ヨエル・カレーニョ、ソーニャ・ヴィノグラッド (ノルウェー国立バレエ団) Photo ©Kazuhisa Shiihara |
筆者の所属するジョージア(旧グルジア)国立バレエ団からは主催者2名が『コッペリア』を、ヌッツァ・チェクラシヴィリと高野陽年が『グラン・パ・クラシック』を踊り、フランク・ファン・トンガレンはこれとは別に、ジャンルカ・シアヴォニ振付『La Strada』のソロも披露した。2組がそれぞれ全く意趣の異なるレパートリーを選び、各々の持ち味を発揮したことは、同バレエ団ダンサーの多様さを物語っている。来春東京で行われるニーナ・アナニアシヴィリのガラ公演でも彼らソリスト勢の姿が見られることを期待したい。
『コッペリア』 武藤万知、フランク・ファン・トンガレン (ジョージア国立バレエ団) Photo ©Kazuhisa Shiihara |
福岡国際バレエフェスティバルの第一歩は成功裡に終わったが、今後は2年ごとの開催を目指すというファン・トンガレンらを待ち受ける真の困難は向こう10年間に潜んでいるといっても過言ではないであろう。今年、このフェスティバルは福岡と京都で子供向けのワークショップを開催したが、世界中で活躍する福岡出身のダンサーを地元の観客に知ってもらおう、という当初の目的に忠実であろうとするならば、「上京」はあまり賢明な判断ではない。また、福岡のダンサーを中心とした公演を銘打つ限り、2年ごととはいえ出演者がある程度固定される可能性も否定はできない。そうした際、いかに新味を提供しつつ規模を拡大できるかというのが今後の大きな課題となるであろう。今回の公演は、地域にとって間違いなく画期的な企画であった。だからこそ、今後の足跡は長い目で見届けていきたいものである。
▶公演情報
「福岡国際バレエフェスティバル」・2016年7月27日(水)19:00
@福岡シンフォニーホール(アクロス福岡)
・2016年7月28日(木)19:00
@北九州芸術劇場大ホール
上演時間:約2時間半(休憩30分)
公式ウェブサイト
http://www.fibf.org/
(文・鷲見雄馬)
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