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2014年9月23日火曜日

一酸化炭素中毒

ゾーシェンコ Зощенко の小説『黄金の言葉』 Золотые слова に угореть といふ動詞が出てきて、辭書を引くと「一酸化炭素中毒にかかる」と書いてある。「一酸化炭素中毒にかかる」が一語の動詞になつてゐるのはいかにも奇妙であるが、ゴンチャロフ Гончалов の『オブローモフ』 Обломов にも угар 「一酸化炭素、一酸化炭素中毒」といふ語が出てくる(第一部第九章)。「угар はよく起こつた」「これは暖氣を徒に煙突から逃がすのを厭ふために、定期的に月一二度は起こつた」といふ文脈の中で使はれてゐる。これを見るに暖爐を焚きながら十分に換氣をしなかつたために氣分が惡くなることが昔はあつたものと察せられる。しかし暖爐が原因であるとは分かつてゐたであらうが、ずばり一酸化炭素が元凶であると認識してゐたか否かは定かでなく、第一文學作品に――ジャンルにもよるが――いきなり「一酸化炭素中毒」などといふ語が出てきたら讀者は面食らふだらうから、譯語には工夫せねばなるまい。もつとも和語の表現としては「燻される」くらゐしか思ひ付かないのではあるが。   23 сентября  2014 г.

(三村一貴)


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