僕も自分の体調についてちょっとしたハプニングがあったのでそのことを書こうと思う.
二週間くらい前に遡ることになるのだが,肩こりに悩み始めた.普段の肩こりは,試験前で机やパソコンに向かう時間が長くなると時折悩むくらいで,風呂にでもゆっくり入ればいずれ治った.しかし,今回は勝手が違う.風呂に入っても,たくさん寝ても快復する気配がない.板に貼り付けられたような違和感を抱えたまま,肩こりくらいで大袈裟な,と気にしないことにしていた.
実は心当たりがあった.肩こりが始まる一週間くらい前から,環境が変わったのだ.僕の学科は四年生になると,研究室に配属されて1年間そこで実験のノウハウを習う.僕も学科のしきたりに習い,とある研究室にお邪魔することになった.研究室では基本的に一日中実験をすることになる.となると,その実験中の姿勢というものが健康管理上大切になってくる.この姿勢がどうやらよくないのではないか,と容易に想像がついた.
ではどのような姿勢をしているのか,という話をするまえに大雑把に実験の様子を説明しておく.僕の研究室の実験は基本的にレーザーを扱う実験である.レーザーから出る光を鏡にあてたり,レンズを通したりしながら一つの装置を完成させる.その作業は基本的には卓球台くらいの高さの台の上で行われる.鏡やレンズを机の上に極めて几帳面に並べるという作業に1日を費やすことになる.さて,レーザー光を取り扱う際に注意しなければならないのは,決して目に入れてはならないということだ.だからレーザー光路は原則台に対して水平になるようにして,顔の高さにこないようにする.レーザー光路を横から覗き込むことなどは禁忌である.
となると,僕の基本姿勢は机の上から机を見下ろして手を動かす姿勢になるということはお分かりいただけるだろうか.例えるなら,卓球台の上にドミノを緻密に並べる作業を1日続けると思っていただいて差し支えない.いかにも肩を懲りそうだろう.実験自体は好きだし,面白いので良いのだが,この姿勢だけはどうも性に合わない.性に合わないから肩が凝る.慣れれば治るだろうと思っていた.
ところがである.肩こりを直そうと長風呂したある日,風呂上がりに立ちくらみをおこしてしまった.それ以来立ちくらみがひどくなり,ちょっと座って立つだけでも足元がふらつくようになってしまったのだ.
肩こりはともかく立ちくらみは困る.困る上に長続きすると心配な症状でもある.「肩こり 立ちくらみ」などとGoogle検索をしてみると,どうにも心穏やかではない記事が並ぶ.これらの症状はストレスが原因であるとかいてあることが多いので,楽しいはずの研究室がストレスになってるのかなとか,研究の性質上不規則になる生活が体に合わないのかなとか,気になり始めた.一方で小さなことでビクビクするようには育った覚えはないので,僕の体はどっか決定的な変調を来たしているのかもしれないとも思ってますます気になるようになった.
ところがである.インターネットでいろいろ調べ,いろいろな人の不確かな意見を参考にするうちに,あることを思い出した.それは長らく通っていなかったとある接骨院のことである.この接骨院の先生は,怪我を見せたり症状を伝えたりすると,怪我した場面や日常の悪い癖のようなものを占い師さながらピタリと当て,的確に症状の原因を説明してくれる.立ちくらみと接骨院の接点は少ないように見えるが,この人なら何かわかるかもしれないと思い,時間を作って行ってみた.数年ぶりのことであった.
「クーラーのせいだよ」
僕の肩を触るなり先生は答えた.確かにクーラーが効きすぎてる研究室だとは思っていたのだがそれが肩こりに直関してるとは思い付きもしなかった.悪かったのは僕の姿勢そのものではない.前かがみの姿勢によって首が露出される上にクーラーが直接当たり,首筋にある神経の出口が冷やされてしまい,それが原因で神経が圧迫されるのだという.立ちくらみや付随した頭痛,肩こり,あるいは手足のしびれもおこるんじゃないか,とおどろおどろしい予言をされ,首にタオルなどを巻いて冷えないようにしろという指示をいただき,テーピングをしてもらってから帰された.
それからというもの,健気な僕は,あまり人の目を気にしなくて良い時は,首筋にタオルを巻いたり,パーカーのフードをかぶったりして過ごすようになった.不審者然とした風貌に身をやつすのは是とし難いが,それでも肩こりや立ちくらみは改善された.もっとはやく接骨院を思い出すことができなかったのは不覚だが,記憶のトリガーとして機能してくれたという点において,インターネット上の情報にも感謝したいと思う.
【委員連載⑥】につづく
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