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2014年7月22日火曜日

【連載】前号への評 第7回 - 創刊号総評(吉村勇志)


 論説集発行委員会編集部です。いよいよ梅雨も明け、樹々の葉を透かす夏日が灼けるような烈しさで皮膚を射る季節となりました。

 第7回は、吉村勇志(よしむらゆうし)君による創刊号の総評になります。工学の見地からとらえた論説集全体のシステム論は、三村君の総評との対照はさることながら、彼独自の語り口のうちに生き生きとしています。
 これまで同様、この新連載についてのご意見等は、ウェブサイト右下の“Have your say”、または本委員会メールアドレスにまで、よろしくお願いします!

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▶吉村勇志


 本記事を書こうとマイクロソフト社のWord を起動しようとしたところ、エラーが出て起動しなかった。そこでコントロールパネルからクイック修復を行ったが、エラー30089-12 で失敗。全てのエラーを修復する筈のオンライン修復をするも、30089-4。オンライン修復が出来なかった時はここ行けと貼られたリンクからのマイクロソフトのページで30089-4 をサイト内検索すると、過去に同じ質問をした人への回答が出ている。それによると、特殊なソフトでOffice アンインストールし、その後PC 再起動、Office 再インストールとのこと。コントロールパネルから削除は行えないかと思いアンインストールを試みるも、30089-4 で不成功。そこで、ウェブブラウザがIE でなくChrome という一点を除き指示通りにしてアンインストール。再起動。但し再インストールに関してはNEC が予めPC のウェブブラウザにお気に入り登録していたページからアクセス。
 何故、このようなことを書くのかと言えば、システムについて論じる好例だと思ったからである。今の私は実行出来たが、果たして去年の私だったら、これは可能だっただろうか。いや、そうとは思えない。というのも、これには少なくとも以下のようなことが出来るのが暗黙のうちに前提とされているからである。
1.Office を使えること(でないとそもそも疑問を生じ得ない)
2.直接目的のページに飛ばなかったとき、適切な窓から検索を実行できること(マイクロソフトのページで検索すること)
3.指示において、どこが絶対同じでなければならなくてどこは若干違っててもいいのか判断できること(IEでなくとも問題ないと判断すること)
 去年の私だったらOffice が使えなかったのだからこんなエラーには元々遭遇しない訳なので、1 の理由で行えなかったと言える。この“ 実行できない” 原因1,2,3 を論説集に当てはめてみるとどうなるだろうか。
 1は「論説集をそもそも知らない」という状態に対応する。これについてはここでは論じない。グループとしての論説集のプロモーションの問題だからだ。
 2,3はそれぞれ「得るべき情報が分からないとき、どう探すべきか」、「得た情報から、本当に必要なもの以外をどう落とすべきか」という問題に一般化出来る。各々の筆者は主張の全てを記しているとし、前者については問題が無いと仮定して、後者について論じる。
 畑違いの人が書いた文章を読むときに困るのは、どこが枝葉末節で“ 捨てて良い” のか分からないことである。論説に限らず人間が何かを理解するには膨大過ぎる情報の破棄が必要なのだが、その意義は十分に理解されているとは言い難い。情報の破棄によってより深い理解が得られる実例を、カオス理論で有名なテント写像でお見せしよう。カオスとフラクタルはしばしばセットで語られるが、その繋がりがここで得られる。
 テント写像とは
 
のことであるが、この写像でのカオスとフラクタルの関係が情報の破棄によって簡単に分かることを説明する。T をx in [0,1] に何度も作用させたときの様子が知りたいのだが、ここで具体的な数値のx を追わず、1/2 以下のx に対応するL、1/2 以上に対応するR に簡略化する。すると、区間[0,1] はL とR に分割される訳であるが、L もT(x) の位置によってLL,LR というように分割される。R も同様。LL もT^2(x) によりLLL、LLR と別れる。こうすると、区間全体も、内側のL も、更に内側のLLも同じ構造を持つのが分かるだろう。これがフラクタルである。また、十分に長いLR 列を考えれば、フラクタル性よりLR 列は自由に伸ばして行けるので、区間のどんな点であれ任意に近い点にT をn 回作用させると一定距離1/2 以上離れる点が存在することが分かるだろう(T を作用させ続けると末尾の区間へ移っていく)。これが初期値鋭敏性である( 例えば末尾LLL とRRR 等)。カオス軌道とは有界で漸近的に周期的でない初期値鋭敏な列のことであるが、明らかにこの場合、T は[0,1] 内の点をずっと[0,1] 内に入れておくし、初期値鋭敏であるし、無理数から始めれば非周期的である。ここで、初期値鋭敏である根拠はフラクタル性そのものであった。よって、ここまでの議論でカオスとフラクタルの関係が分かり、その理解のキーワードが情報の破棄であると理解して頂けたことだろう。
理解には情報の破棄が必要だということを納得した上で論説を振り返ると、どれも著者との直接の会話等が無いと理解が困難なことがお分かりだろう。情報の捨て方が分からないからである。今後は分野の違う人々の対話の成立の為に情報の破棄という視点を利用して頂きたい。

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 さて、新論説集創刊号の「前号への評」はこれで全て掲載終了となります。じきに第3号に掲載されるであろう、第2号への評に乞うご期待ください!

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