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2005年1月11日火曜日

F Dilute your discipline.


企画番号F「Dilute your discipline.」

企画責任者:吉村勇志(東京大学工学部システム創成学科)

 この企画は、“Define your discipline.”及び“Defend your discipline.”の後継企画である。以前は単一の領域に関して定義を定め、それを擁護したが、今回はその歴史的展開に主軸を置く。その分野が如何にして形成され、そして今後どのように変化し、他の領域へ継承されていくかを1600字程度(見開き2pが目安)で述べてもらいたい。
 ある学問を理解する為にはその問題意識を知らなければならない訳であるが、その問題意識そのものが、それを抱くに至った過程において過去の学問によって束縛されている。如何なる学問分野も、それ単独で無から生じた訳ではない。必ずそれ以前からの知見があり、そこからの発展、批判という形で生まれてきた。一見ある人が全く新しく創始したように見える分野も、広く取れば既存の理論では彼の問題意識に応えることが出来なかった故であり、先行の研究から無関係という訳ではない。仮令物理学等の、実験によって白黒が明確に付く分野であっても、「何故その事象を検証しようと思ったのか」という点において研究者の問題意識の影響を受け、それを通じて過去に規定される。例えばマルクス経済学はイギリスの経済学(古典派)、フランスの政治学(社会主義思想)、ドイツの哲学(観念論)を継承している。労働価値説や弁証法がその具体例である。
 また、学問は未来からも支配される。これも学問が過去から影響を受けるのと同様、研究活動が人間によって人間の為に行われるが故である。将来において何らかの難問に挑む、応用を成し遂げることを目的として全く別個の領域が研究されることは少なくない。即ち、現在の学問の在り様を記述するのにも、未来に関する観念が必要なのである。そうでなければ、研究者の問題意識を十分に記述することが出来ない。例えば古典力学を記述する為に解析学が発達したことや、量子力学や統計力学はプロイセンの鉄鋼業振興政策や電灯の普及がその動機としてあること等が実例として挙げられるであろう。
 さて最後に、この企画の命名の意義を説明しよう。“dilute”とは“薄める、希薄化する”ということであるが、これが何故学問の歴史的展開を象徴する言葉たり得るのか。それはこれまで述べてきた、学問の流転を振り返ってみれば分かる。ある学問を継承させて発展させたからと言って、新しい学問は古い学問の全てを内包する訳ではないし、古い学問の価値が無くなるというものではあるまい。古いものを不完全に、希薄化された状態で包含するからこそ、それらは別個のものとして価値を両存させることが出来るのである。それは例えば、マルクス経済学はヘーゲルの弁証法を継承しているからといって、マルクスを学べばヘーゲルは不要という訳ではないことを考えれば明らかである。これは自然科学でさえしばしばそうであって、量子力学や相対論があるからといって古典力学が無価値でないこと等が挙げられるであろう。これは過去だけでなく将来に対しても成り立つ議論である。恐らく、今我々が研究しているものは、いつかは完成してそれ以上研究されなくなっているであろう。しかしその影響を受け、新しく成立した研究がある筈である。それらは我々の研究とは独立した価値を持っているであろう。その姿を想像することは単なる知的遊戯に留まらず、我々の今の行為の意義さえ問い返すのではなかろうか。

執筆にあたっての注意事項については企画概要をご覧ください。
 本企画は、第6号出版後、新論説集「マージナリア」公式ウェブサイトに全文が転載されます。
 執筆希望者は1月31日(日)までに、参加の旨を編集部にまでお伝えください。
 提出期限は2月14日(日)です。

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F "Dilute your discipline."

Project leader:Yushi Yoshimura (The University of Tokyo)

only in Japanese




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